先達川の湯【秋田県】先達川温泉

秋田県仙北市田沢湖生保内
先達川沿いにあります。
一本松たっこの湯に向かう途中に、川が大きく開けて、川の反対側に湯気が見えるところらへんを降りていきます。

こちらは本当に見つけ辛く、大変だったので、その様子を日記のように書いてみました。
いつもとは少し違ったテイストです。
読んでみてください。

ある日のこと。
秘湯の本を眺めていました。
その中に、先達川の湯と書かれた写真に釘付けになった。

「なにこの白い沼みたいな野湯!!この沼に食べられてみたい!!!!!」

思い立ったが吉日、早速秋田の森林管理局に電話してみる。すると
「そんな温泉知らないよ。聞いたこともない」森林管理局の人も知らないなんて、まさに秘境!
しかも調べて行くうちに、どうやらその先達川の湯の先に、一本松たっこの湯という野湯が潜んでいるらしいとの噂が。
ここまで行けば2個の野湯はいれるじゃん!一石二鳥!
 こりゃいくしかないな。ということで出発!!

 今は秋。秋の秋田県といえば、熊デンジャーシーズン!秋のクマはもうじき訪れる冬の冬眠に向けてたくさん蓄える時期。。。
 そうです、人を恐れず襲ってくるクマ達が湧いてくる、世にも恐ろしいシーズンなのです。

 でも野湯を周るならそんなことは言ってられないので、マイ熊対策グッズをカバンにしまった。

 

1、クマ除けの鈴(クマに自分の居場所を知らせて近づかせないため)
2、クマ除けスプレー(唐辛子の液みたいなやつが9メートルほど飛びだすスプレー)
3、クマが来た時のための斧(近距離で戦う時のため)もちろん法律で大丈夫な斧です。

 友達に、「1.2はわかるけど、3の斧でクマが来た時本当に戦える?斧で戦う気満々みたいだけど、半径1メートル以内にクマが来た時にクマとあんたが戦う?!嘘でしょ?!!!やばい笑いすぎてお腹痛い!!!」と爆笑されたけど、こっちは至って本気です。

 そんなクマ対策グッズと、まだまだ秋はアブの恩恵にもあずかる時期でもあるので、アブ除けのスプレーも必須。これがまた臭い!ハッカの匂いなんだけど服に付いたらなかなか取れないし、首とか顔まわりにかけるから鼻を刺激して来てくしゃみが止まらなくなる。でもアブに刺されると大きく腫れて、これまた本気で痛いのでしっかりスプレーも準備。
もちろん普通の虫除けスプレーも一緒に振りかけるので、ミックスされた凄い匂いが鼻にくるけど、こちらも必要なのでカバンへ。さらにトドメの日焼け止めクリームも塗って、とにかく臭い人の出来上がり。

 服は野原でも着替えられるようにストンとした長いワンピースなどに、長靴とスニーカーを準備!

 いつも野湯に付き合ってくれる友達の中から、この時期空いてそうな友達に電話。「だから!もう野湯は付き合わないって言ってるでしょ!!」と言いながらも、なんだかんだ承諾。笑(文句言いながらもいつも一緒に来てくれる仲間が大好き!)

 さて出発です!ナビで黒湯温泉を目指し、ここまでは難なく来れました。ここから山の中に入っていきます。

 まず山の麓に【熊出没注意!】の看板がいくつも掲げてあり、息を飲む私たち。。。でもここまで来たんだから引き下がったら女が廃るでしょ!ってことで、いざ!山の中へ!

 いろんな方が書いてくれてる情報を元に探すのだけど、時期や年数の経過により載っている写真とは景色も違って来ているから、同じ景色が見つからない。。。
 でもどうやら先達川沿いにあるとの情報が!少し山を進んだところに小さな川が流れていて、写真と比べてみても同じような川なので、多分ここが先達川だ!と確信し川へ降りてみること30分。滑る川を登ったり降りたり、川の上の岸の方かもしれないとひたすら草をかき分けて行くも野湯はなし、、、というか湯気が上がってる様子もない、、、


 じゃあここじゃないのかな?と先へ進むも川なんて見えてこない。ちょっとこれはヤバイかもということになり、出発地点へもう一度戻って、そこにあったお宿さんに一回聞いてみようということに。


「すみません。先達川の湯という野湯を探しているのですが、どこにあるかご存知でしょうか?」
お宿の方
「え?先達川の湯?そんなの聞いたことないね。。。たっこの湯じゃないの?」

「この後、たっこの湯にも行こうと思うのですが、その前に先達川の湯に行きたかったのですが、、、」
お宿の方
「あんたたち二人で行くのかい?この時期クマが出るし、冬眠前で危ないから気をつけないとダメだよ?この前もお客さんがクマに出くわして怖い思いしたって言ってたし」
私たち
「。。。。。。。。。。。。。。。」

 やっぱ出るかぁ。。。それに先達川の湯は、近所の方も知らないほどの秘湯なんだ。森林管理局の方も知らないって言ってたし、尚更行ってみたい!でも手がかりはあの川の写真しかなかったし、湯気もどこからも出てなかった。。。とりあえず日が暮れる前に一本松たっこの湯へ先に入りに行こう!ということに。

 一本松たっこの湯は、とても有名でさっきのお宿さんから頂いた周辺の地図にも載っているほどです。なのでここは問題なく行けるね!サクッと行ってサクッと味わって来よう!と気持ち新たに出発!

 が、、、、甘かった、、、、

 たっこの湯までは歩いて30分ほどと書いてあるのだけど、何もない山道を進むのはとても怖くて、自分達のクマ除けの鈴の音しか聞こえないし、先も木々しか見えないので段々不安になる。

 そんな時、私たち二人の足が止まった。

 8メートル程先に大きな茶色い塊が道を塞いでいるのが見えた。

「あれ、、、、もしかして、、、クマ、、、、?、、、、、」

 二人で息を飲む、、、でもここからじゃよく見えないから少しずつ進んでみる。友達は完全に私を押す。私がクマのランチになっている間に逃げる気だ。
 恐る恐る、そーーっとそーっと近づく。。。
 近くにきてそれが大きな岩だということを確認。ホッとしたのもつかの間、だんだん道が細くなって来て、開けていた道が森の中へと繋がっていた。徐々に狭くなる道、すると行き止まりに。
 と思ったら左に曲がった所に川が流れており、その上に幅60センチほどの手すりも何もないコンクリートの橋があった。

 

 これを渡れってことだよね。。。後ろを振り向くと友達が私の顔を恨みのたっぷりこもった顔で睨んでいる。。。。ですよね〜。。。。
 さぁ、でもここまで来たら引き下がれないので、この恐怖の橋も渡ります。

 渡ったところからは最早道とはとても呼べない30センチほどの誰かが草木をかき分けて通っただけの跡みたいな道でした。

友達「え?これ大丈夫?動物の通り道みたいなレベルじゃない?ここでクマに遭遇したらもう逃げられないよ?あんたが斧でやっつけてくれない限り助からないよ?」
私「大丈夫!やっつける!私に任せて!」
なんの根拠もない自信。

でも女は度胸!よっし!行くしかない!

 右手には斧。左手にはクマスプレーを握りしめ、自分の身長より高い草をかき分けて、私たちは先へ進みました。なにかの動物のフンみたいなのがたくさん転がっていたり、動物の足跡がたくさんあった。草の先は見えないから前にクマが出て来たとしても目の前に来るまで気付かないだろうし、後ろや横から狙われていたとしてもわからない。それに自分のテリトリーなクマの方が私たちより一枚も二枚も上手なはず。。。
 そう思ってたら段々めちゃくちゃ怖くなって来た。。。やばい、クマにここにいるって気付いてもらって近づかないようにしてもらわなくては。。。

「あるーーーーひーーーーー!!!もりのーーーーなかーーーーー!!!!くまさーーーーんーーーーにーーーー!!!であぁーーーーーたぁーーーーーー!!!♪」

 徐に歌い出した私に友達は

「クマに出会ってどうすんだよ!!!!!」

と、するどいツッコミを入れた後

「はなさーーくーーーもーーーりーーーーのーーーみーーーちーーぃーーーー!!!くまさーーーんんーーーにーーーーでーーーあーーーぁーーーーたーーーーーー!!!!!♫」
と続けてくれた!なんて良いやつ!

 そこからは二人で森のくまさん大熱唱!笑

散々、森のクマさんの歌を熱唱した頃、そろそろ見えて来るはずの、本に載ってる目印の岩がないことに気づいた。もうこの辺にあるはずなのに、その岩を曲がらないといけないのに、、、この30センチの道とは呼べない道が差すのは左、しかもすごく急な登り。。。両手を使っても登れるかな?というレベル。作戦会議だ。

友達「これ登る?」
私「。。。。この辺を右って書いてあるけど、これ左だよね。。。」
友達「一本道だと思ったけど、これ通り過ぎちゃったか、道間違えたんじゃない?」
私「確かに。。。」
友達「もうすぐ日が沈むよ?それでまだ探して先に行って、見つけたとしても帰り道またここ通って帰るんだよ?日が沈めばクマの危険性も高くならない?
私「よし、諦めも肝心か。。。戻ろうか。戻りつつ先達川の湯をもう一度探してみよう」
友達「え?」

 という流れで、一本松 たっこの湯はリタイヤ。引き返すことに。

 後ろ髪を引かれながら来た道を戻る。帰りはなぜか早く感じた。でもやっぱりここまで来たのに野湯に一個も入れないで帰ることだけはしたくない!たっこの湯が見つけられなかったなら、なんとしても幻の先達川の湯は見つけてやる!
 
 先に進んだことにより、来た道の左側がずっと大きな川だったことがわかった。もしかしたら、先達川というのはこの大きな川のことなのかもしれない、そうすると、この大きな川沿いにあるはずだ。でもひたすら大きな川の横を歩いて来たので、一体この川のどの辺にあるのかがわからない。しかも私たちが歩いて来ている道からは草が生い茂っていて、その草むらを4メートルくらい下ると川があるので、まず草で下にある川は全く見えないし、ピンポイントで野湯の場所を下らないと草と泥の坂は何度も上り下り出来るような状態ではない。

 もうやっぱりダメかと諦めようとした時、ふと草むらを見ると、そこだけなんとなく大きな動物か人間が草をなぎ倒して降りて行ったであろう跡が出来ていたのです。

目印としては大きな川を挟んだ向こう側の山の上の方に湯気が立っているところです

 

「ここ降りてみるよ。」

 絶対に野湯に入って帰りたい一心で、生い茂っている草むらをかき分けながら、更に泥と土での坂を下りはじめた。

急な崖みたいになっているので、当然滑るし、木や草に掴まっても切れるし折れるし。。。私の心ももうボッキボキに折れかけた頃、最早滑り落ちるように草むらを下ったその時

「あった!!!!!!!!」

 

 目の前に、まるで天国のような神秘的な光景が広がってました。横には大きな先達川が流れ、その先達川と草むらの坂の間に見たこともないような大きな灰色の水たまりのようなものが。


 
 湯気がモクモクと立っていて、水たまりの底からはブクブクと源泉が湧いていました。

「やばい。。。泣きそう。。。。」

 私も友達もここまでの苦労があったからか、見つけた瞬間の感動は今でも忘れられないです。

「綺麗だね。。。」

よし!さっそくいただきます!!!!

人なんて来るはずのない場所なので堂々と裸になり神秘的な野湯 先達川の湯へ!

 

「いっただきます!!!!!」

 

 足の底から湧く源泉は場所によっては火傷するほど熱かったので、自分でちょうど良い場所を見つけて自分だけの贅沢湯船。周りの景色は、360度見渡す限り大自然に囲まれ、綺麗で広大な空に包まれて、ここは天国なのかな?

 底にはたくさんの泥が溜まっていて、そこに足を突っ込むと柔らかいシルクに包まれているような優しい感触で、きっとこの泥は美容に良いに違いないと全身に塗りまくった笑

 友達「一時はどうなることかと思ったけど、こうやって秘湯を見つけた時の快感はやっぱり何物にも変えがたい経験だよね。」

 クマの危険にまで付き合わせたのに、そんなことを言ってくれる友達に心から感謝の気持ちでいっぱいになった。

「ありがとう。」

 

 

 

だから野湯ハンターはやめられない。

さぁ、次はどこへ行こうかな。

 

まとめ

今まで入った野天湯の中でも、上位に君臨する素晴らしい野天湯。
神秘的な見た目に、お湯や泥の良さ。
見つけることが困難だからこそ、大切にしたい。そんな野湯です。